物理学者のリチャード・P・ファインマンが「原子を一つずつ扱う技術」の可能性に言及したことを端緒とし、新しい科学技術としてナノテクノロジーが20世紀後半に開花しました。その成果物のひとつとして金属ナノ粒子があり、これらは今日幅広い科学技術の分野で利用されています。では物質のサイズが小さくなり、最終的に原子ひとつに近い世界まで近づくと、物質にはどのような変化がもたらされるのでしょうか。サイズが1nmを切るようなサブナノ粒子は、反応性に極めて富んでおり、燃料電池用の電極触媒や、光触媒、酸素酸化触媒による有害物質の分解や転換などに優れた特性を示すことが見出されており、その応用範囲は広大です。こうしたサブナノ粒子のサイズや組成を精密に制御することでより効率的かつ選択性の高い反応を実現することができ、新たな技術革新を推進する可能性を秘めています。
原子の世界に限りなく近い1nmというスケールは結晶学や金属電子論のような固体物理を基盤とするこれまでの材料科学の限界点であり、また分子軌道法のような化学(分子科学)を適用することも難しい未開拓領域でした。この未開拓領域に位置する物質であるサブナノ粒子を自在に扱うには、新しい研究手法やアプローチが必要になります。私たちはデンドリマーと呼ばれる独自の高分子鋳型などを開発し、原子ひとつひとつを扱う新しい精密無機合成化学を開拓してきました。また、原子を直接観測する電子顕微鏡のような新技術を活用したサブナノ粒子の構造解析や、その機能解明を展開しています。未開拓物質「サブナノ粒子」に秘められたサイエンスを追求しながら、発見した新物質を社会実装を進めています。