デンドリマーをリアクター (反応器) として合成した1 nm以下のサブナノ粒子がどんな化学的性質を示すか、その機能開発に向けた応用研究は始まったばかりです。その最大の特徴は表面に露出している原子数の割合が9割を越すため、表面の反応性がきわめて高く、かつ、反応基質を活性化する反応点 (構造欠陥) を多く持つことです。これに着目して、従来の固体触媒やナノ粒子触媒では、達成できない飛躍的な触媒活性を示すことを見出しました。例えば、19原子の白金で構成されるサブナノ粒子は燃料電池のカソード反応である酸素還元や、酸素酸化反応に対して極めて高い触媒活性を示します(Angew. Chem. Int. Ed. 2015, Angew. Chem. Int. Ed. 2019)。複数元素で構成される合金サブナノ粒子も卓越した活性を示すものが多数見つかっています(Angew. Chem. Int. Ed. 2011, Sci. Adv. 2017, Angew. Chem. Int. Ed. 2020)。反応基質に適した触媒をデザインできる「革新的なサブナノ触媒」の開発を展開しています。
サブナノ粒子の中には元素本来の性質を飛び越えた別の元素の性質を発現する「超原子」と呼ばれる物質も存在します。例えば、アルミニウムやガリウムは13原子集まると驚くことにハロゲンの性質を発現しますが、私たちはこの超原子の性質を持つサブナノ粒子を溶液中で化学合成することに成功しました(Nature Commun. 2017, Adv. Mater. 2020)。
これはまだ理論計算で発見したに過ぎないのですが、10原子の亜鉛からなるサブナノ粒子は球対称な原子よりも軌道の縮重度が高く、超縮退原子としてこれまでにない磁気特性や発光特性などが発現すると期待されます(Nature Commun. 2018)。この概念をさらに発展させ、私たちはナノ物質の新しい周期表いわゆる「超周期表」を提案しています(Nature Commun. 2019)。この超周期表の真の意義は、未知の超原子(安定な元素種、原子数、原子組成)の予測にあります。1869年にメンデレーエフが元素周期表の概念を提案し、150年間にわたり基礎化学のみならず新元素の発見を支えてきたことを考えれば容易に想像がつくことでしょう。